生成AIは計算が苦手?Pythonで"解決"は本当か
- TADA Masayuki

- 6月18日
- 読了時間: 12分
こんにちは、合同会社多田EC支援事務所の多田優之です。
企業支援機関の職員の方から、「生成AIに関数を出させて計算させるのは、どこまで信頼できるのか?」という質問をいただきました。実際、多くの事業者さんがネットショップの売上データを分析したり、顧客の購買パターンを理解したりするために、ChatGPTなどの生成AIを活用し始めています。
しかし、「AIが計算を間違えるのでは?」という不安を抱えながら利用している方も多いのが現実です。今回は、この疑問に対して技術的な観点から解説し、実際にどう活用していけばよいのかお話しします。

Soraで作成
生成AIが計算を苦手とする根本的な理由
まず結論からお伝えすると、「生成AIは計算が苦手」という認識は完全に正しいです。これは一時的な技術的制約ではなく、生成AIの根本的な仕組みに由来するものです。
なぜ計算が苦手なのか
生成AIは、膨大なテキストデータから「次にくる文字」の確率を予測して文章を生成する仕組みです。人間のように論理的に計算するのではなく、過去に見たパターンから「答えらしきもの」を組み立てています。
例えば、「2+2=4」と正しく答えるのは、計算ができるからではありません。学習データに「2+2=4」という文字列が大量に含まれていたため、「2+2=」の後には「4」が来る確率が高いと学習した結果なのです。
これが4桁以上の複雑な計算になると、急激に正答率が下がる理由です。数字を「量」として理解するのではなく、「文字のパターン」として処理しているためです。
そもそもPythonって何?
ここで、「Pythonってよく聞くけど、実際何なの?」と思われる方も多いでしょう。
Python(パイソン) は、プログラミング言語の一つです。難しく考える必要はありません。例えるなら、ExcelやWordのような「コンピュータに指示を出すためのツール」です。
Pythonの特徴
人間が読みやすい文法:英語に近い書き方ができる
データ分析が得意:数字の計算やグラフ作成が簡単
無料で使える:ライセンス料などは一切不要
実際に、どんな指示を出すのか見てみましょう:
売上データを読み込む
→ 月ごとに集計する
→ グラフを作る
→ ファイルに保存する
これをPythonで書くと、わずか数行のコードで実現できます。つまり、「人間の言葉で指示を出すと、コンピュータが理解できる形に翻訳してくれる翻訳者」のような存在です。
Pythonコード生成なら信頼できるのか?
「生成AIは直接計算できないが、Pythonコードを書かせて実行すれば正確になる」という話をよく聞きます。これは部分的には正しいのですが、新たな課題も生み出しているのが実情です。
計算の正確性は向上するが...
確かに、生成されたPythonコードをコンピュータが実行すれば、計算そのものは正確に行われます。
具体例で考えてみましょう:
あなたが「今月の売上合計を計算して」とChatGPTに頼んだとします。
AIが理解:「売上データを全部足せばいいのね」
Pythonコードを生成:合計 = データの全ての売上を足す
コンピュータが実行:正確に計算を実行
この流れでは、3番目の「計算実行」は100%正確です。
問題は、「正しい計算ロジックのコードを生成できるか」という2番目のステップに移った時です。
例えば、「返品分は除外して計算」という条件があった場合、AIがそれを正しく理解してコードに反映できるかが重要になります。
3つのリスクカテゴリー
AIが生成するコードには、大きく3つのリスクがあります。
1. 構文・環境エラー
存在しない関数を使おうとする
ライブラリの古いバージョンのAPIを使用する
単純な文法ミス
これらは実行時にエラーが出るため、比較的発見しやすいエラーです。
2. 意味論・論理エラー(最も危険)
コードは正常に実行されるが、論理が間違っている
統計分析で不適切な手法を選択する
境界条件(100以上なのか100より大きいのか)を誤解する
これが最も危険で、間違った結果を「正しい」と信じてしまうリスクがあります。
3. 品質・性能エラー
非効率なコードで処理が遅い
メモリを大量消費する
セキュリティ上の問題を含む
ネットショップ分析での実践的な活用法
では、ネットショップオーナーさんが、どのように生成AIを活用していけばよいでしょうか。実は、プログラミングの知識がなくても、十分に活用できる方法があります。
まずは「見える化」から始める
生成AIは、以下のような分析タスクには比較的適しています:
月次売上の推移グラフ作成:「過去1年の売上推移をグラフにして」
商品カテゴリ別の集計:「カテゴリ別の売上ランキングを作って」
顧客の地域分布の可視化:「都道府県別の購入者数を地図で表示して」
基本的な統計値の算出:「平均客単価と最も売れた曜日を教えて」
これらは定型的な処理が多く、結果をグラフで確認できるため、明らかな間違いに気づきやすいからです。
実際の指示例: 「添付したCSVファイルの売上データから、月ごとの売上推移を折れ線グラフで表示してください。グラフには前年同月比も併記してほしいです。」
このように、普通の日本語で指示すれば、AIが適切なPythonコードを生成し、実行してくれます。
データの準備が最重要
AI分析を行う前に、必ず以下の準備を行ってください:
個人情報の完全匿名化(必須)
氏名:「顧客001」「顧客002」などの連番に変更
メールアドレス:完全に削除するか「@」に置換
住所:都道府県または市町村レベルまでに変更(例:「東京都渋谷区」まで)
電話番号:完全に削除
商品名:機能はそのままで「アクセサリーA」「バッグB」などに変更
実際の匿名化例:
変更前:「田中花子様、東京都渋谷区神宮前1-2-3、ハンドメイドピアス(桜モチーフ)」
変更後:「顧客001、東京都渋谷区、アクセサリーA」
(ECサイト分析の一例)
匿名化済みECデータ 2,096人

都道府県別_個数_金額

Excelを使った簡単な匿名化方法(一例):
1. CONCATENATE関数で顧客番号を自動生成 ←とある生成AIから「古い」と言われましたが・・
=CONCATENATE("顧客",ROW()-1)
CONCATENATE:文字を繋げる関数
"顧客":固定で入れたい文字
ROW()-1:行番号から1を引いた数字(2行目なら「1」、3行目なら「2」)
結果:2行目に入力すると「顧客1」、3行目なら「顧客2」と自動で番号が振られます
2. SUBSTITUTE関数で商品名を一括置換
=SUBSTITUTE(A2,"ピアス","アクセサリーA")
SUBSTITUTE:指定した文字を別の文字に置き換える関数
A2:元の商品名が入っているセル
"ピアス":置き換えたい元の文字
"アクセサリーA":置き換え後の文字
結果:「桜モチーフピアス」→「桜モチーフアクセサリーA」のように変換
実際の操作手順例:
新しい列を作って、上記の関数を入力
1つのセルで確認できたら、下の行にコピー&ペースト
変換された内容をコピーして「値のみ貼り付け」で固定
元の個人情報列は削除
データの品質確認
明らかな異常値がないかチェック(売上1億円の注文など)
日付形式が統一されているか確認(2024/1/1と2024-01-01が混在していないか)
欠損データの処理方針を決める(空白セルをどう扱うか)
ファイル形式の統一
ExcelでもCSVでも対応可能ですが、CSVの方が処理しやすい
1行目には必ず項目名を入れる(日付、商品名、売上金額など)
重要な注意点: 匿名化したデータでも、生成AIにアップロードする際は「このデータは匿名化済みですが、分析目的以外には使用しないでください」と一言添えることをおすすめします。また、分析が終わったら、アップロードしたファイルは削除するよう心がけましょう。
段階的な検証プロセス
小さなサンプルデータで試す 手計算で確認できる範囲のデータで結果をチェック
既存ツールとの比較 ExcelやGoogleアナリティクスなど、既存の分析結果と照らし合わせる
常識的な判断 「夏にコートの売上が急増」など、不自然な結果がないか確認
ネットショップオーナーさんの具体的な活用例
私が実際の支援現場で効果的だと感じている活用例をご紹介します。プログラミングの知識は一切不要です。
1. 売上推移とトレンド分析で成長パターンを掴む
メルカリ・BASE・Minneで取得できるデータを活用した基本的な分析です:
月別売上の推移:どの月に売れているか
商品カテゴリ別の売上:何が一番売れているか
時間帯別の売上:いつ売れやすいか
実際の指示例:
「添付の売上データから、過去6ヶ月の月別売上推移をグラフで表示してください。売上が伸びている月と下がっている月の特徴も分析してください。また、商品カテゴリ別の売上ランキングも作成してください。」
結果として、「夏物が6月から急伸している」「平日の夜の時間帯によく売れている」といった販売戦略に直結する気づきを得られます。
2. 商品パフォーマンス分析で売れ筋を見極める
どの商品が本当に利益を生んでいるかを明確にします。これはBASEやメルカリShopsなどで特に重要な分析です。
実際の指示例:
「商品別の売上データから、『売上個数』『売上金額』『利益額』の3つの視点で商品ランキングを作成してください。また、『よく売れるけど利益が少ない商品』と『売上は少ないけど利益率が高い商品』をそれぞれ抽出してください。」
分析で分かること:
在庫を多めに持つべき商品
価格を見直すべき商品
販促に力を入れるべき商品
(ECサイト分析の一例)
ChatGPT o3Pro https://chatgpt.com/

Claude Opust4 https://claude.ai/

Gemini2.5Pro(Canvas) https://gemini.google.com/

Genspark(AIシート) https://www.genspark.ai/

Manus https://manus.im/

Skywork https://skywork.ai/

3. LTV(顧客生涯価値)分析で長期戦略を立てる
LTV(Life Time Value)とは、「一人のお客様が、あなたのお店で生涯にわたっていくら使ってくれるか」を表す指標です。これはメルカリやMinneのような個人販売でも活用できる重要な分析です。
実際の指示例: 「顧客別の購入履歴データから、以下を分析してください:
お客様一人当たりの平均購入金額
初回購入から2回目購入までの平均日数
お客様の購入回数の分布(1回だけ、2-3回、4回以上など)
リピート率(2回以上購入してくれるお客様の割合)
この結果から、新規顧客を獲得するためにかけてよい広告費の目安も計算してください。」
分析で分かること:
新規顧客獲得にかけられる広告費の上限
リピート率向上のための施策の優先度
長期的な売上予測の精度向上
4. アクセス解析と売上の関係を読み解く
BASEでは「ショップアクセス解析」、メルカリShopsでは「ショップ分析」から取得できるデータを活用します。
実際の指示例:
「ページビュー数、商品閲覧数、お気に入り登録数、実際の売上データを組み合わせて分析してください:
閲覧数に対する購入率(コンバージョン率)を商品別に算出
お気に入り登録から購入までの期間の傾向
アクセスが多い時間帯と実際に売れる時間帯の比較
どの流入元(検索、SNS、直接など)からの購入率が高いか
この結果から、商品ページの改善点と販促のタイミングを提案してください。」
分析で分かること:
商品写真や説明文の改善ポイント
SNS投稿の最適なタイミング
在庫切れを起こしやすい時間帯の予測
注意すべき分析領域
一方で、以下のような高度な分析は専門家による検証が不可欠です:
財務分析:税額計算、正確な利益率など法的な基準がある計算
在庫最適化:複雑な数理モデルを使った発注点の算出
価格設定の最適化:競合他社との価格戦略
高度な予測モデル:機械学習を使った売上予測
これらは生成AIが論理的な誤りを犯しやすく、ビジネス判断に大きな影響を与える可能性があります。
今すぐ始められる!3ステップの導入法
ネットショップオーナーさんが今日から実践できる方法をご紹介します:
ステップ1:手軽に始める(今週中)
メルカリなら「売上・振込申請」→「売上金の確認」から月別データをメモ
BASEなら管理画面の「データ」→「売上レポート」からCSVダウンロード
Minneなら「売上管理」→「売上レポート」から売上データを取得
重要:個人情報を匿名化してからChatGPTにアップロード
「月の売上合計と1日平均売上を教えて」と指示
ステップ2:見える化にチャレンジ(来週)
3ヶ月分のデータで売上推移グラフを作成
商品カテゴリ別や曜日別の売上分析に挑戦
「このデータから何が読み取れるか、改善案も含めて教えて」とAIに相談
ステップ3:本格活用(来月)
6ヶ月〜1年分のデータでLTV分析や商品パフォーマンス分析
結果を元に実際の販促計画や商品ラインナップを見直し
効果を測定し、次の分析に活かす
重要なのは、「完璧を求めず、まず試してみる」ことです。AIの分析結果を100%信じるのではなく、あなたの商売感覚と組み合わせて判断することが成功の鍵です。
まとめ:AIは「頼れる助手」として活用しよう
生成AIの計算能力について、重要なポイントをまとめます:
直接的な計算は信頼できない 複雑な数値計算を生成AIに直接させるのは危険
Pythonコード生成も万能ではない コードの論理的な正しさは人間が検証する必要がある
段階的な導入と継続的な検証が鍵 まずは簡単な分析から始め、結果を必ず検証する
「頼れる助手」として位置づける 最終的な判断は人間が行い、AIはそのサポート役
ネットショップオーナーさんへのメッセージ
データ分析と聞くと「難しそう」と感じるかもしれませんが、生成AIを使えば、普通の日本語で指示するだけで、驚くほど詳細な分析結果を得ることができます。
重要なのは、AIの結果を「参考情報」として受け取り、あなたの商売経験と組み合わせて判断することです。お客様の気持ちや市場の空気感は、まだまだ人間にしか分からないことが多いからです。
でも、「なんとなく売れている」から「データで根拠を持って売れている」に変わることで、ビジネスの成長スピードは確実に加速します。まずは小さく始めて、AIという強力な助手を味方につけてみてください。
企業支援機関の職員さんへ
事業者さんにAI活用を提案する際は、「技術の説明」よりも「具体的な成果」を示すことが重要です。実際のデータを使った分析デモンストレーションや、成功事例の共有が効果的でしょう。
特に個人情報保護の重要性については、必ず最初に説明してください。「便利だから」という理由だけでなく、「安全に使うため」の手順を丁寧に指導することで、事業者さんの信頼を得ることができます。
また、「AIが全てを解決する」のではなく「事業者さんの判断力を支援するツール」という位置づけで紹介することで、より現実的で持続可能な活用につながります。匿名化の手順も含めた「AI活用ガイドライン」を作成し、配布することをおすすめします。
何かご質問やご相談がありましたら、セミナーや個別支援を通じてサポートさせていただきます。お気軽にお声がけください!
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商工会や金融機関での専門家相談、企業研修、セミナー講師など、様々な形で企業支援に携わらせていただいています。ネットショップの写真撮影から販路開拓まで、実務に直結するサポートをご提供します。
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